見積の単価マスタの作り方|9列の設計と改定の残し方
単価マスタは、価格の一覧ではなく「その価格が使える条件」の記録
見積の単価をそろえようとして最初に作るのは、項目名と金額を並べた一覧です。ところが一覧にした途端、条件が抜け落ちます。同じ「LEDモニター」でも、1日だけ借りるのか3日押さえるのか、スタンド込みか別か、深夜搬入があるかで、使える単価は変わります。
条件が書いていない単価は、次の担当者が別の条件の案件にそのまま使います。古い単価、他の案件で特別に下げた単価、日数の数え方が違う単価。担当者ごとに見積額がずれる原因の多くは、金額ではなく条件の欠落です。
単価マスタは「この価格は、どの条件で、いつからいつまで、誰が確認して使えるのか」の記録として作ります。見積ソフトのマスタ登録でも、Excelの単価表でも考え方は同じです。
単価マスタに持たせる9列
最低限、次の9列を持たせます。
| 列 | 書く内容 | 抜けると起きること |
|---|---|---|
| 項目ID | 名称が変わっても追える社内コード | 名前の違う同じ項目が二重に登録される |
| 名称・仕様 | 型番・サイズ・含むもの(スタンド込み等) | 仕様違いの単価を取り違える |
| 数量の単位 | 台・名・枚・㎡・式 | 単位の違う単価に同じ数量を掛ける |
| 日数の数え方 | 拘束日/稼働日/追加日は別単価/期間一式 | 日数を二重に掛ける(次の節) |
| 価格区分 | 原価(仕入)か、標準の販売単価か | 原価のまま見積に載る |
| 単価 | 金額(税抜・税込を列名で固定) | 税の扱いが担当者ごとに変わる |
| 適用条件 | 数量帯・時間帯・会場条件・手配期限 | 深夜や直前手配の割増が漏れる |
| 有効期間 | 適用開始日と終了日 | 改定前の単価が使われ続ける |
| 出所・確認者 | 仕入先の回答番号、確認した人と日付 | 根拠をたどれず、更新もできない |
以下は架空のダミーマスタです。金額は説明用で、相場ではありません(税抜)。
| 項目ID | 名称・仕様 | 単位 | 日数の数え方 | 区分 | 単価 | 適用条件 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| EQ-012 | LEDモニター55型(スタンド込み) | 台・日 | 拘束日。2日目以降は追加日単価 | 原価 | 初日12,000/追加日8,000 | 搬入日〜撤去日で数える |
| EQ-012 | 同上 | 台・日 | 同上 | 販売 | 初日20,000/追加日13,000 | 同上 |
| ST-003 | 運営スタッフ(受付) | 名・日 | 稼働日(8時間まで) | 販売 | 25,000 | 8時間超・22時以降は別項目 |
| PR-021 | パネル出力A1(スチレンボード) | 枚 | — | 販売 | 6,000 | 10枚以上は別単価。入稿5営業日前まで |
同じ項目IDに原価と販売の2行があり、それぞれに条件と期間が付いています。有効期間(いずれも2026/4/1〜)と出所・確認者の列は表示を省いていますが、実際のマスタでは必ず持たせてください。
イベントの単価は「日数の数え方」で二重計算が起きる
製造や建設の単価は、多くの場合日数では変わりません。イベントは違います。機材は拘束した日数で、人は稼働した日数で費用が決まることが多く、手配先によっては2日目以降の料金が初日と違います。「台・日」という単位だけでは、日数をどう数えるかが分かりません。
上のダミーマスタのモニター(原価)を、前日搬入・本番・撤去の3日間押さえる場合で比べます(架空の計算例)。
| 計算のしかた | 式 | 原価 |
|---|---|---|
| マスタどおり(初日+追加日) | 12,000+8,000×2 | 28,000円 |
| 追加日単価を見落とす | 12,000×3 | 36,000円(過大) |
| 期間一式の単価に日数を掛ける | 3日一式30,000×3 | 90,000円(二重計算) |
| 本番日だけで数える | 12,000×1 | 12,000円(期間の漏れ) |
同じ機材、同じ3日間でも、日数の数え方を間違えると原価が12,000円から90,000円まで振れます。日数の数え方を列として持たせ、見積の明細では「単価×数量×日数」の日数がどの数え方かを書くのが防ぎ方です。本番1日だけで数える漏れは見積漏れの防ぎ方で「期間の漏れ」として扱っています。数量の単位のそろえ方は展示会ブースの見積|図面から数量を拾う6手順にまとめています。
原価・標準の販売単価・採用した単価を分ける
単価には3つの層があります。混ぜると、改定や値引きのたびに過去の見積が壊れます。
| 層 | 持つ場所 | 誰が変えるか |
|---|---|---|
| ① 原価(仕入単価) | 単価マスタ | 仕入先の改定を受けて、購買・制作管理 |
| ② 標準の販売単価 | 単価マスタ | 価格の判断をする人(営業責任者など) |
| ③ 採用した単価 | 見積の明細 | 見積担当者。値引きは理由と承認者を残す |
ポイントは2つです。
- ③は見積を作った時点でコピーして固定する。見積がマスタの「現在値」を参照していると、マスタを改定した瞬間に過去の見積の金額まで変わってしまいます。採用日とマスタの版も一緒に残します
- ③の値引きを②に書き戻さない。ある案件で特別に下げた単価が標準に混ざると、次の案件の担当者は理由を知らずにその単価を使います。標準に取り込むなら、承認を通します
原価と販売単価は列名でも区別してください。「単価」という列が1つしかない表では、原価がそのまま見積に載る事故が起きます。
改定は上書きせず、行を足す
単価が変わったとき、既存の行の金額を書き換えると、いつから変わったのかが消えます。同じ項目IDに、有効期間の違う行を足します(架空例)。
| 項目ID | 区分 | 単価 | 有効期間 | 改定理由 |
|---|---|---|---|---|
| EQ-012 | 原価 | 初日11,000/追加日7,500 | 2025/4/1〜2026/3/31 | — |
| EQ-012 | 原価 | 初日12,000/追加日8,000 | 2026/4/1〜 | 仕入先の料金改定(回答No.xxx) |
確認者の列も実際には持たせます(表では省略)。
これで「去年の見積はなぜこの金額だったのか」に答えられます。追加見積で元の見積と同じ単価を使うべきか、改定後の単価を使うべきかも、有効期間から判断できます。追加分だけ単価が変わる場合の書き方は追加見積の作り方で扱っています。
名称が似た項目を1つにまとめる(名寄せする)ときは、金額が近いことを理由に統合しないでください。仕様・作業範囲・対応時間のどれかが違えば、別の項目IDとして残します。
最初から全項目を作らない
単価マスタが失敗する典型は、全項目を一度に登録しようとして、更新が追いつかずに放置されることです。始め方は次の順番です。
- 直近の見積(例:10件)の明細を並べ、同じ項目が何件に出てくるかを数える
- 出現回数の多い項目から、9列を埋める(最初は20〜30項目で十分)
- 次の見積で実際に使い、条件が足りない列を直す
- 使えることを確認してから、項目を増やす
項目を増やす前に、維持のルールを決めておきます。
- 更新の担当者を決めた(原価と販売単価で別の人でもよい)
- 更新のきっかけを決めた(仕入先の改定通知、見積回答で差が出たとき、定期見直し)
- 標準の販売単価を変えるときの承認者を決めた
- 見積に採用した単価を固定して残す方法を決めた
- 期限切れの単価を見積で使えないようにした(または警告が出るようにした)
過去の見積をまず「探せる」状態にする段階についてはイベント見積の自動化で、見積書の列の考え方はイベント見積書テンプレートの選び方で解説しています。Excelで始める場合は、イベント見積書テンプレート(Excel・自動計算式入り)の明細に「日数の数え方」と「単価の有効期間」の列を足すところから始めると、マスタとの対応が取りやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q. Excelの単価表と、見積ソフトのマスタのどちらで作るべきですか? 考え方は同じなので、今の見積がExcelならExcelで始めて構いません。大事なのは9列の中身と、見積に採用した単価を固定して残せることです。ソフトに移すのは、項目と運用ルールが固まってからのほうが移行も楽です。
Q. 単価の出し方(決め方)はどう考えればよいですか? 販売単価は、原価に自社の作業や管理の費用、利益を見込んで決めるのが一般的な考え方です。ただし決め方そのものは会社ごとの価格判断です。単価マスタで大事なのは、決めた単価に条件と期間と確認者を付けて残すことです。
Q. 協力会社ごとに単価が違う場合はどうしますか? 原価は仕入先ごとに別の行にし、出所の列に仕入先を書きます。標準の販売単価は、どの仕入先を使う前提かを適用条件に書いておきます。仕入先を変えたときに販売単価も見直すべきかが判断しやすくなります。
Q. 案件ごとに条件が違いすぎて、標準単価が作れません。 すべてを標準化する必要はありません。まず出現回数の多い項目だけを標準にし、それ以外は「都度見積」として区分を分けます。都度見積の項目も、採用した単価と条件を見積側に残しておけば、繰り返し出てきた時点で標準に昇格させられます。
Q. AIに単価の候補を出させる場合、何に気をつければよいですか? 候補の金額だけでなく、どの項目IDの、どの有効期間の単価を参照したかが確認できることが前提です。条件と出所が追えない候補は、人が採用の判断をできません。単価マスタの9列が整っていることが、AIに任せる範囲を広げる準備にもなります。
次のステップ
見積の明細や単価の管理を、社内の仕組みとして整えたい場合は、イベント業界の見積・発注DXガイドを確認してください。見積業務の隠れコストの試算、標準化から仕組み化までの5ステップ、自社の現在地チェックリスト10項目を収録しています。