見積AIのセキュリティ|図面・単価を渡す前の確認表
結論:見積AIに渡す前に「誰の情報か」と「どこへ行くか」を分けて確かめる
見積AIや生成AIのサービスに図面・単価・過去の見積を入れる前に、次の順で確かめます。
- 入れたい資料を、誰の情報かで分ける。顧客の情報、協力会社の情報、自社の情報では、入れてよいかを決める人が違います
- 伏せる項目を決める。顧客名を消しただけでは、会場と会期から案件が分かることがあります
- ベンダーには、データの流れ(入力・処理・保管・検索・学習・閲覧・削除)ごとに聞く。「学習に使いません」という一文は、このうち1つにしか答えていません
- 試用で使う資料と、使わない資料を先に決める
本記事は、導入前に確認する質問を整理したものです。特定のサービスが安全かどうかを判断するものではありません。実際の条件は、各サービスの最新の契約・規約・仕様と、自社の情報管理のルールで確かめてください。
見積の資料には、3者の情報が混ざっている
イベントや展示の見積には、自社だけの情報ではないものが多く含まれます。自社の情報管理ルールで「入れてよい」となっていても、顧客や協力会社との取り決めで入れられないことがあります。
| 資料 | 誰の情報か | 入れる前に確かめる相手 | 試用での扱いの例 |
|---|---|---|---|
| 顧客から届いた図面・会場のレイアウト図 | 顧客 | 顧客との契約(秘密保持・目的外の利用)、営業の担当者 | 自社で描いた図面で代える。顧客の了承を取る |
| 出展内容(未発表の製品名・グラフィックの原稿・パース) | 顧客 | 同上 | 寸法と面の数だけを残す |
| 協力会社の見積書・単価 | 協力会社 | 協力会社との取り決め、発注の担当者 | 会社名を記号に、単価を比率に置き換える |
| 自社の原価・掛率・粗利 | 自社 | 社内の情報管理ルール、管理者 | 試用では入れない。入れるなら範囲を決める |
| 顧客の担当者の氏名・連絡先 | 個人 | 社内の個人情報の取り扱い | 入れない |
秘密保持の取り決めには、目的外の利用や第三者への開示を禁じる条項が入っていることがよくあります。外部のサービスに入れることがそれに当たるかどうかは、契約の文言によります。判断がつかないときは、法務の担当者に確認するか、顧客の了承を取ってから入れます。
伏せたつもりでも、会場と会期で案件は特定できる
顧客名を消しても、展示会の案件は残った情報から特定されやすい種類の案件です。出展社の一覧や小間の配置図は、主催者のサイトで公開されていることが多いためです。
| 残りやすい項目 | 特定される理由 | 置き換え方 |
|---|---|---|
| 会場名・ホール名 | 会期と組み合わせると展示会が決まる | 「大型展示場」など区分だけにする |
| 会期・搬入日 | 同上 | 「3日間・搬入1日」など日数だけにする |
| 小間番号・小間の位置 | 公開されている小間の配置図で出展社が分かる | 「角小間」「島小間」など形だけにする |
| 図面の表題欄 | 顧客名・案件名・設計者名が入っている | 表題欄ごと消す |
| ファイル名・PDFの文書情報 | 作成者や会社名、案件名が残る | ファイル名を付け直し、文書情報を消す |
| グラフィックの原稿 | 未発表の製品名やロゴが入っている | 寸法と面の数だけにする |
見積に必要な情報は、小間の広さ・形・工種・日数のように、伏せても残せるものが大半です。試用で確かめたいのは明細の形と数量の出し方なので、固有の名前を消しても判断はできます。
ベンダーへの質問は、データの流れで7つに分ける
ベンダーの説明でよく聞く「学習に使いません」は、下の表の「学習」の行にしか答えていません。保存や検索、担当者の閲覧はそれとは別の条件です。
| 流れ | ベンダーへ確認する質問 | 答えが曖昧になりやすい点 |
|---|---|---|
| 入力 | 送る資料と、送らない項目を選べるか | 図面を丸ごと送る前提になっていないか |
| 処理 | 処理を行う事業者は誰か。外部のAIモデルの提供者は入るか | 自社のサーバーで処理する、とだけ説明される |
| 保管 | 原本・読み取ったデータ・生成した結果を、何のために、いつまで保存するか | 原本の保存と、読み取ったデータの保存を分けているか |
| 検索・再利用 | 自社の過去案件として参照される範囲はどこか。他の利用者の結果に使われないか | 「自社内だけ」の範囲が部署単位か会社単位か |
| 学習 | 入力・出力・人が直した内容を、モデルの改善に使うか。使わない設定は最初からか、申請が要るか | 直した内容(修正の履歴)が抜けていないか |
| 閲覧 | ベンダーの担当者が見られる条件(障害の対応・問い合わせ)と、その記録 | 「原則見ない」の例外が何か |
| 削除 | 原本・読み取ったデータ・記録・バックアップを、いつ、どこまで消すか | 画面で消した操作で、どこまで消えるか |
人が直した内容は、見積の判断そのものです。どの単価をどう直したかの履歴には、自社の値付けの考え方が出ます。入力と出力だけでなく、修正の履歴がどう扱われるかを聞いてください。
回答は、口頭ではなく文書で受け取り、回答日・対象のサービスとプラン・回答した人を記録します。プランによって条件が違うことがあるため、試用と本契約でプランが変わるならもう一度確かめます。認証の取得をうたう説明を読むときは、それが会社全体のものか、使うサービスのものか、外部のAIモデルの提供者まで含むのかも確かめます。
AIの検索は、閲覧の権限に従うかを確かめる
過去の見積を社内でも誰に見せるかは、案件の条件・顧客の条件・協力会社の原価で分けておくのが基本です。分け方は過去の見積データを活用する方法の「見せる範囲と、再利用してよい範囲を分ける」で解説しています。
AIに過去の見積を検索させる場合は、もう1段の確認が要ります。AIが管理者の権限で全部の見積を検索すると、閲覧できないはずの協力会社の原価が、草案の中に混ざって出てくることがあります。検索の範囲が、草案を作る人の閲覧の権限に従うかを確かめてください。
試用の前に、使ってよい資料を決めておく
確かめ終わる前に、本番の案件の資料をまとめて入れないことが大切です。試用を始める前に、次を決めておきます。
- 試用に使う案件と、使わない案件
- 顧客の図面を使うなら、了承を取ったか。取れないなら自社で描いた図面で代える
- 伏せる項目と、伏せ方(表題欄・ファイル名・文書情報を含む)
- 資料を入れる人と、結果を見られる人
- 試用が終わったときに消す範囲と、消えたことの確かめ方
- ベンダーの回答を保存する場所
図面を使った試用の進め方はAI積算・拾い出しソフトの選び方で、デモに過去案件を持ち込むときの伏せ方は見積システムの選び方のよくある質問で、試用の結果から採否を決める進め方は見積AIの導入検証(PoC)で扱っています。
必要な情報管理を満たせない場合は、入れる資料を絞って使うか、導入を見送るのも選択肢です。作業時間の短縮だけで採否を決めないでください。見積業務のどこにAIを使うかを工程ごとに整理するときは、イベント業界の見積・発注DXガイドの現在地チェックリストが使えます。
よくある質問(FAQ)
Q. 「入力したデータは学習に使いません」と書いてあれば、図面を入れても大丈夫ですか? それだけでは判断できません。学習に使わなくても、処理や検索のために保存されることや、障害の対応でベンダーの担当者が見られることがあります。保管・閲覧・削除の条件も合わせて確かめ、そのうえで顧客との取り決めに反しないかを確認してください。
Q. 社員が無料の生成AIに見積を貼り付けて使っています。どうすればよいですか? 禁止するだけでなく、入れてはいけない資料を種類で示すと守られやすくなります。たとえば「顧客の図面・協力会社の単価・個人の連絡先は入れない」のように決めます。無料のプランと法人向けのプランでは条件が違うことがあるので、使っているサービスの規約を確かめてください。
Q. 顧客の了承は、どう取ればよいですか? どの資料を、どのサービスに、何の目的で入れ、終わったらどう消すのかを書面で伝えて了承を取ります。了承の範囲は試用だけか、本番の運用まで含むのかも分けておくと、あとで食い違いません。
Q. 認証を取得しているサービスなら、個別の確認は要りませんか? 認証がどの範囲を対象にしているかで意味が変わります。会社全体の管理の仕組みに対するものか、使うサービスそのものか、外部のAIモデルの提供者まで含むのかを確かめてください。認証があっても、顧客との取り決めで入れられない資料は入れられません。
次のステップ
見積・発注の資料を社内でどう分けて管理するかを決める場合は、イベント業界の見積・発注DXガイドを確認してください。見積書テンプレート(Excel・自動計算式入り)、見積業務の隠れコストの試算、自社の現在地チェックリスト10項目を収録しています。