AI積算ソフトの選び方|誤差を4種に分けて自社図面で試す
結論:AI積算は「合計が合うか」ではなく、部位ごとの誤差の種類で比べる
AI積算や図面の拾い出しソフトを試すときは、次の順で比べます。
- 比べる範囲を「図面から数量を出す」工程に絞る。単価や見積書の組み立ては別に評価します
- 自社の図面と、人が拾った正解の拾い表をセットで用意する
- 出てきた数量を部位ごとに正解と並べ、誤差を「見落とし・誤検出・ルール違い・数量差」の4種類に分けて数える
- 改訂図面を処理し直したときに、人が直した値が残るかを試す
合計の数量や金額が近くても、拾い漏れと余計な拾いが打ち消し合っているだけのことがあります。採否は合計ではなく、部位ごとの中身で決めます。
比べるのは「図面から数量を出す」工程だけ
本記事では、図面を読み込んで数量を出すところまでを扱います。単価の当て方や見積書の組み立てまで含めた選び方は見積システムの選び方で、見積業務全体でAIに任せる範囲は見積AIとはで解説しています。
積算ソフトの多くは、建築・設備の図面と標準的な部材を前提に作られています。展示会ブースやイベントの造作、期間限定の内装の図面は、その前提から外れる点があります。試す前に、自社の図面のどこが外れるかを確認しておきます。
| イベント・展示の図面の特徴 | 試用で見ること |
|---|---|
| 造作が一品物で、標準部材に当てはまらない | 部材を自社で定義できるか。定義しない物を黙って捨てていないか |
| レンタル什器・機材が記号や品番で描かれる | 記号を数えて個数にできるか。日数は図面に無いので別に持つ |
| グラフィック(出力物)の面積が図面に寸法だけで出る | 面と寸法から面積を出せるか。開口や重なりをどう扱うか |
| 会場のレイアウト図と自社の施工図が混ざって届く | 自社の小間の外(隣の小間・通路)を拾ってしまわないか |
| 本番直前まで版が変わる | 版ごとに処理し直したときの扱い(後述) |
レンタル品の数量と日数の分け方は見積の単価マスタで扱っています。
試験用の図面は、正解の拾い表と一緒に用意する
試用の前に、担当者が手で拾った拾い表を正解として用意します。部位ごとにIDを振り、数量・単位・控除のルールまで書いておくと、AIの出力と1行ずつ突き合わせられます。拾い表の列の作り方は図面の拾い出しにまとめています。
図面は1案件だけでなく、性質の違うものを混ぜます。
- ふつうの案件(図面がそろっていて、改訂が少ない)
- 改訂があった案件(旧版と新版の両方がある)
- 読みにくい図面(スキャンした紙、手書きの修正入り、パースが中心)
ベンダーと設定を調整するときに使った図面と、最後に判断するときに使う図面は分けます。調整に使った図面で良い結果が出るのは当たり前で、それだけでは自社の他の案件でも同じ結果になるとは言えません。
顧客から預かった図面を、試用のために外部のサービスへアップロードしてよいかは、先に確かめます。顧客との契約や秘密保持の取り決めで扱いが決まっていることがあります。確かめられない場合は、自社で作った図面や、顧客名・会場名を伏せた図面で試します。
誤差は4種類に分けて数える
AIの出力と正解の拾い表を部位ごとに並べ、違いを次の4種類に分けます。種類ごとに、割合の分母が違います。
| 誤差の種類 | 中身 | 数えるときの分母 |
|---|---|---|
| 見落とし | 正解にある部位を、AIが拾っていない | 正解の部位数 |
| 誤検出 | 正解に無い部位(対象外・隣の小間など)を拾った | AIが出した部位数 |
| ルール違い | 部位は合っているが、控除・端数・単位の扱いが違う | 両方にある部位数 |
| 数量差 | 部位もルールも合っているのに、数が違う | 両方にある部位数 |
分母をそろえずに「精度◯%」と1つの数にまとめると、何が起きているか分からなくなります。見落としは後から気づきにくく、誤検出は確認すれば消せる、というように、種類によって後の工程への影響も違います。
次は架空の、単純化した例です。ブースの床と壁、隣の小間との境の壁を拾った結果を並べています。
| 部位ID | 部位 | 正解 | AIの出力 | 差 | 分類 |
|---|---|---|---|---|---|
| F-01 | 床(カーペット) | 36.0㎡ | 36.0㎡ | 0 | 一致 |
| W-01 | 背面の壁 | 24.0㎡ | 30.0㎡ | +6.0㎡ | ルール違い(開口を控除していない) |
| W-02 | 側面の壁 | 12.0㎡ | — | −12.0㎡ | 見落とし |
| — | 隣の小間の壁 | — | 6.0㎡ | +6.0㎡ | 誤検出 |
| 合計 | 72.0㎡ | 72.0㎡ | 0 |
合計は72.0㎡でぴったり合っています。しかし正解の3部位のうち1部位を見落とし、出力の3部位のうち1部位は誤検出、残りの1部位はルール違いです。合計だけを見ていたら「完璧に合った」と判断していた結果です。
ルール違いは、設定で直せることがあります。開口の控除や端数の扱いを設定できるか、設定した内容が画面で確かめられるかを、ベンダーに聞いてください。見落としと誤検出は設定では直らないことが多く、人の確認で補う前提になります。
試用で確かめる8項目
部位ごとの採点と合わせて、次の8項目を自社の図面で確かめます。特定の製品がこれを満たすかどうかは、製品ごと・設定ごとに違います。できない項目は「できない」と記録し、その場合に人がどんな作業で補うかを書いておきます。
| 項目 | 自社の図面で確かめること |
|---|---|
| 1. 入力形式 | 自社に届く形式(PDF・CAD・スキャン)をそのまま読めるか。変換の手間はどれくらいか |
| 2. 対象の区別 | 床・壁・造作・グラフィック・電気・什器を分けて出せるか |
| 3. 読めない部分 | 読めなかった部分を「要確認」として出すか。黙って抜けていないか |
| 4. 根拠の表示 | 数量ごとに、図面上のどこを拾ったかが見えるか |
| 5. 修正の保存 | 人が直した値と、直した理由が残るか |
| 6. 単位とルール | 控除・端数・単位を自社のルールに合わせられるか |
| 7. 図面の改訂 | 旧版と新版で、同じ部位を対応付けられるか |
| 8. 出力 | 部位ID・確認状態をつけた拾い表の形で、見積の工程に渡せるか |
このうち3・4・5は、図面の拾い出しで挙げた「拾った範囲と拾えなかった範囲が見えるか」「直した値が次の工程に渡るか」と同じ観点です。7は次の節で試し方を具体的に書きます。
図面改訂で、人が直した値が残るかを試す
イベントや展示の図面は、本番の直前まで版が変わります。AIの出力を人が直したあとで新しい版を処理し直したとき、次のどちらかが起きると、改訂のたびに同じ修正を繰り返すことになります。
- 直した値が消え、AIの元の出力に戻る
- 部位の対応が切れ、全部の部位が「新しい部位」として出てくる。どこが変わったのかが分からなくなる
改訂があった案件の図面で、次の手順で試します。
- 旧版の図面を処理する
- 出力のうち2〜3か所を、人が正解に合わせて直す
- 新版の図面を処理する
- 変わっていない部位で、直した値が残っているかを見る
- 変わった部位だけが差分として出てくるかを見る
変わった部位だけを旧版・新版・差で並べられれば、その差がそのまま追加見積の根拠になります。差分から追加見積を作る流れは追加見積の作り方で解説しています。
採否は工種ごとに決めてよい
採点の結果、すべての工種でうまくいくことはまれです。工種ごとに、見落とし・誤検出の件数と、人が確かめて直すのにかかった時間を記録します。
| 工種 | 見落とし | 誤検出 | 確認と修正の時間 | 判断 |
|---|---|---|---|---|
| 床・壁の仕上げ | ||||
| 造作 | ||||
| グラフィック | ||||
| 電気・照明 | ||||
| レンタル什器 |
たとえば「床と壁の仕上げはAIの出力を人が確かめる、造作は手で拾う」のように、工種を限って使う判断もあります。時間を測るときは、処理が終わるまでの時間ではなく、人が確かめて見積に渡せる状態になるまでの時間で比べます。測り方の考え方は見積AIとはの「小さく検証する」で扱っています。
拾った数量を載せる見積書の雛形は、イベント見積書テンプレート(Excel・自動計算式入り)として無料で配布しています。
よくある質問(FAQ)
Q. ベンダーの資料に「精度◯%」と書かれています。自社でも同じ結果になりますか? 同じになるとは限りません。その割合の分母(部位の数か、面積か、金額か)と、どんな図面で測ったかを確かめてください。自社の図面で、見落とし・誤検出・ルール違い・数量差を分けて数え直すと比べられます。
Q. 正解の拾い表が、担当者によって違います。 先に控除・端数・単位のルールを文書にして、2人で同じ図面を拾い、食い違った部位をそろえてから正解にします。正解がぶれていると、AIの誤差と人の差が区別できません。
Q. 何案件くらいで試せばよいですか? 件数より種類をそろえることが大切です。ふつうの案件・改訂があった案件・読みにくい図面を最低1件ずつ入れ、調整に使った図面とは別の図面で最後の判断をします。少ない件数の結果を、自社全体の精度として扱わないでください。
Q. 手で拾うより時間がかかった場合は、導入しないほうがよいですか? 工種ごとに見てください。全体では遅くても、特定の工種では確認と修正だけで済んでいることがあります。その工種に限って使うか、図面の形式をそろえてから試し直すかを検討します。
次のステップ
拾い出しから見積・発注までを、社内で同じ観点で点検できるようにする場合は、イベント業界の見積・発注DXガイドを確認してください。見積書テンプレート(Excel・自動計算式入り)、見積業務の隠れコストの試算、自社の現在地チェックリスト10項目を収録しています。