展示会ブースの見積|図面から数量を拾う6手順
「1小間いくら」では出せない理由から始める
展示会ブースの見積を作るとき、最初に詰まるのが「1小間ならだいたいいくら」という問い合わせです。答えは、小間の形が分からないと出せない、です。
同じ1小間(一般的に3m×3mの9㎡)でも、両隣と背面が他社に挟まれた小間なら立てる壁は3面、通路に2面が面する角小間なら2面、四方が通路の島小間なら壁は0面です。壁が無い代わりに、島小間では四方から見える造作とサインが必要になります。造作の量が根本から変わるので、面積あたりの単価では出ません。
発注側に向けて書かれた相場記事がこの話を書かないのは、書くと相場を提示できなくなるからです。作る側は、ここから逆に考えます。
図面から拾う順序を固定する
費目の一覧を眺めながら拾うと、毎回違うところから手を付けることになり、抜けたかどうかも分かりません。順序を固定すると、抜けは構造的に減ります。
| 順 | 拾うもの | 図面で見る場所 | 単位 |
|---|---|---|---|
| 1 | 床 | 平面図の小間範囲 | ㎡ |
| 2 | 壁・バックパネル | 平面図の間仕切り線と立面図の高さ | ㎡ |
| 3 | 天井・吊り物 | 天井伏図、吊り可否は主催者規定 | ㎡・式 |
| 4 | 造作(カウンター・什器・サイン) | 立面図・展開図 | 台・面・式 |
| 5 | 電気・設備 | 電気図、容量と口数 | 口・kW |
| 6 | 搬入出・設営撤去 | 会期スケジュールと搬入経路 | 人工・車両 |
1〜4は図面から数量が出ます。5〜6は図面からは出ません。会期のスケジュール(搬入が前日か当日か、撤去が深夜か)と会場のルール(指定業者か、養生の要否か)で決まります。ここを図面だけ見て概算すると、あとから最も大きくずれます。
単位をそろえる。「式」を使ってよい条件
同じ現場でも、担当者によって「壁 一式」と書く人と「壁 12㎡」と書く人がいると、見積の比較も次回の流用もできません。原則は㎡・m・台・人工で、「式」は次の2つの場合だけにします。
- 金額が小さく、分解しても判断が変わらないもの(雑材・消耗品)
- 数量が仕様未確定で、確定後に差し替える前提のもの(この場合は備考に「確定後に再見積」と書く)
「造作一式」のように金額が大きい項目を式でまとめると、仕様変更のときに増減の根拠が出せません。変更が来る前提の展示会では、ここが後で効きます。見積書そのものの列構成はイベント見積書テンプレートの選び方にまとめています。テンプレート本体(Excel・自動計算)はイベント業界の見積・発注DXガイドから無料で入手できます。
協力会社との分担を、拾いながら決める
展示会の施工は、大工・電気・サイン・輸送が別会社になることが珍しくありません。拾い出しの段階で「どこまでが自社で、どこからが協力会社か」を決めておくと、見積依頼と社内の原価管理が同時に進みます。
| 工種 | よくある分担 | 見積依頼で伝えること |
|---|---|---|
| 木工造作 | 自社または専属の大工 | 図面の版、仕上げの指定、搬入経路 |
| 電気 | 会場の指定業者になることが多い | 容量・口数・24時間電源の要否 |
| サイン・出力 | 出力業者 | 寸法、素材、納品先(会場か自社か) |
| 輸送・搬入出 | 運送会社 | 会期スケジュール、車両サイズ、待機の有無 |
電気は会場の指定業者しか触れないことが多く、自社の裁量が効かない費目です。ここを自社で見積もってしまうと、あとで主催者経由の請求と二重になります。
人工(にんく)の数え方でいちばんずれる
造作や電気の数量は図面から出せますが、設営・撤去の人工は図面に書いていません。ここが見積者によっていちばん差が出ます。
人工を出すときは、次の3つを順に決めます。
| 決めるもの | 考え方 | 見落とすと |
|---|---|---|
| 作業時間 | 搬入開始から設営完了までの実働。会場の作業可能時間内に収まるか | 時間内に終わらず、翌日の追加手配になる |
| 同時に入れる人数 | 小間の面積で同時作業できる人数には上限がある。9㎡に5人は入らない | 人数を増やしても工期が縮まない前提が崩れる |
| 待機時間 | 搬入口の順番待ち、上階への荷上げ待ち | 実働だけで見積もり、当日の待ちが赤字になる |
待機時間を見ていない見積が、最も高い確率で赤字になります。大規模展示会の搬入は、車両が会場に着いてから小間に荷物が届くまでに数時間かかることがあります。会場と会期の規模から、待機を含めた拘束時間で人工を置いてください。
撤去も同じです。撤去は搬入と違って全社が一斉に始めるため、待機が長くなりがちです。設営より撤去のほうが人工が必要になる現場も珍しくありません。
図面の版と見積を対応させる
展示会の図面は、初稿から本番までにまず変わります。変わること自体は問題ではなく、どの版で見積もったかが残っていないことが問題です。
見積書の備考に、次の2つを書いておきます。
- 見積の根拠にした図面の版(例:2026-10-05 版 平面図・立面図)
- その版に含まれていない項目(例:天井吊りサインは未確定のため別途)
こうしておくと、変更が来たときに「前の版と比べてここが増えた」と差分だけで説明できます。版を書いていないと、変更のたびに総額の押し付け合いになります。変更分をどう伝えるかは見積依頼メールの書き方と例文3種の追加依頼の例文が使えます。
拾い出しの前に決めておく3つ
図面を開く前に、次の3つが決まっていると作業が一度で終わります。
- 小間の形(一般・角・島)と小間数
- 会期スケジュール(搬入日・設営可能時間・撤去の時間帯)
- 主催者の規程で禁止されている仕様(高さ制限・吊り物の可否・裸火)
3つ目が特に効きます。高さ制限を見落とすと、拾い終わったあとに造作の設計からやり直しになります。主催者の出展規程は、図面より先に読むものです。
見積作成そのものの工数を減らす話はイベント見積の自動化|6工程で優先順位を決めるにまとめています。発注側が費用の相場を知りたい場合は展示会の費用|4分類の内訳と規模別の試算を参照してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 概算はどのくらいの精度で出すべきですか? 小間の形と会期スケジュールが分かっていれば、造作の仕様を仮置きして概算を出せます。ただし概算であることと、確定に必要な情報(仕様・規程・搬入条件)を書き添えてください。精度を上げる努力より、何が未確定かを明示するほうが後で揉めません。
Q. 図面がラフスケッチしかない段階で見積を求められます。 拾えるのは床と壁の面積までです。造作は仕様が無いと出せないので、「この仕様なら」という前提を書いた概算にします。前提を書かずに数字だけ出すと、その数字が独り歩きします。
Q. 電気工事は自社の見積に含めるべきですか? 会場によって指定業者が決まっていることが多く、その場合は主催者経由の手配になります。会場の出展規程を確認してから、含める・含めないを決めてください。含めない場合は「別途(主催者手配)」と見積書に明記します。
Q. 撤去費を見積に入れ忘れます。 拾う順序を固定するのが最も効きます。本記事の順序では6番目が搬入出・設営撤去で、ここを必ず通るので抜けません。順序を毎回変えていると、最後の項目から落ちます。
Q. 同じ図面で再見積を求められたとき、前回と金額が変わってしまいます。 図面の版と、前提にした搬入条件を残していないことが原因です。見積書の備考に版と前提を書いておけば、条件が同じなら同じ金額が再現できます。
次のステップ
見積の費目と数量を社内でそろえる仕組みから見直す場合は、イベント業界の見積・発注DXガイドを確認してください。見積業務の隠れコストの試算、標準化から仕組み化までの5ステップ、自社の現在地チェックリスト10項目を収録しています。