イベント原価管理|着地原価と差異を案件ごとに残す
結論:途中の粗利は、未発注の費用を数えるまで信用しない
イベント制作会社が案件の採算を見るときは、次の4つを押さえます。
- 着地原価は「実績+発注済み+未発注の見込み」で出す。未発注の費用を0円で数えると、途中の粗利は必ず良く見えます
- 原価が増えたら、受注額も動いたのか、動かなかったのかを分ける。削られるのは受注額が動かない原価増だけです
- 協力会社の請求がそろうまで、着地を閉じない。イベントは原価が確定するのが開催後です
- 社内工数は「工数込みの粗利」として別の行に出す。外注費だけの粗利と混ぜません
本記事は、会計処理ではなく案件を運営するための内部管理の方法を扱います。主催者が支出を管理する予算表とは目的が違うので、主催者側の考え方はイベント予算の立て方を参照してください。
着地原価は、明細ごとに「いちばん進んだ状態」の金額を1つだけ採る
案件の原価は、明細ごとに状態が進んでいきます。
| 状態 | この行で採る金額 |
|---|---|
| 見積原価 | 受注時に見込んだ原価 |
| 発注済み | 協力会社への発注額 |
| 実績 | 請求書で確認した金額 |
着地原価は、各明細でいちばん進んだ状態の金額を1つだけ採って合計します。見積原価と発注額を両方足すと二重計上になり、逆に「まだ発注していない行」を空欄のまま合計すると、その分が丸ごと抜けます。
以下は架空の案件の例です(税抜)。受注額は2,000,000円です。
| 明細 | 見積原価 | 状態 | 着地に採る金額 |
|---|---|---|---|
| 造作・施工 | 600,000 | 実績 | 600,000 |
| 音響・映像 | 400,000 | 発注済み | 420,000 |
| 運営スタッフ | 250,000 | 発注済み | 250,000 |
| 印刷物・サイン | 150,000 | 未発注 | 150,000(見積原価のまま) |
| 撤去・廃材処分 | 100,000 | 未発注 | 100,000(見積原価のまま) |
| 合計 | 1,500,000 | 1,520,000 |
未発注の行を空欄にしていると、この例では粗利が730,000円に見えます。見込みで足せば480,000円です。撤去・廃材処分のように後から発注する行ほど、空欄のまま忘れられやすいので、見積原価の金額を残したまま「未発注」と状態だけを付けておきます。
単価の3つの層(原価・標準の販売単価・見積に採用した単価)の分け方は見積の単価マスタの作り方にまとめています。
原価が増えたら、受注額も動いたかを分ける
上の例で音響・映像が400,000円から420,000円に増えています。この20,000円が粗利を削るかどうかは、受注額の側が動いたかどうかで決まります。
| 原価が増えた理由 | 受注額 | 粗利への影響 |
|---|---|---|
| 顧客の仕様変更(追加見積が承認済み) | 増える | 小さい(追加見積の粗利率による) |
| 数量の確定(人数が見込みより増えた) | 契約次第 | 変更ルールが見積書にあれば回収できる |
| 仕入れ条件の変化(協力会社の値上げ) | 動かない | そのまま削られる |
| 自社の見落とし(撤去日数の漏れなど) | 動かない | そのまま削られる |
変更台帳を使っているなら、変更の各行に「販売の差額」と「原価の差額」を並べて書きます。販売の差額だけの台帳では、追加見積を出したのに原価がそれ以上に増えていた、ということに気づけません。変更台帳の作り方は追加見積の作り方にまとめています。
下の2つ、受注額が動かない原価増が続く費目は、次の見積で単価や数量の前提を見直す対象です。
イベントの原価は、開催後に確定する
イベント制作の原価は、開催日には確定しません。当日の延長でスタッフの時間が延びる、追加の人員を呼ぶ、撤去後に廃材の量で処分費が決まる。こうした費用は、協力会社の請求書が届いてから初めて金額が分かります。
- 開催後に請求が来る明細に印を付けている(延長・追加人員・廃材処分・機材の破損など)
- 協力会社の請求締めと、届く時期を把握している
- 請求がそろうまで、案件の着地を「確定」にしない
- 請求がそろった時点で、見積原価との差と理由を明細ごとに1行残している
開催直後に「この案件は○○円残った」と報告すると、後から届く請求の分だけ数字がずれます。「見込み」と「確定」を分けて報告するほうが、後で訂正するより信頼されます。
社内工数は、外注費とは別の行で見る
外注費だけを追っていると、社内の作業が膨らんだ影響が見えません。かといって、社内工数を外注費と同じ原価に混ぜると、現金で出ていった費用と区別がつかなくなります。
| 粗利の見方 | 計算 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 外注費だけの粗利 | 受注額 − 外注費の着地原価 | 資金繰りと、協力会社への支払いの確認 |
| 工数込みの粗利 | 外注費だけの粗利 − 社内工数(時間×社内の評価単価) | 案件同士の比較と、次の見積の単価の見直し |
社内の評価単価は、会計上の人件費とは別の、比較のための社内の物差しです。どの工程の時間を数えるか(営業・制作・現場・精算)を社内で決めておかないと、担当者によって数え方が変わり、案件同士を比べられなくなります。
始め方:案件IDで見積・発注・請求をつなぐ
最初から全社のダッシュボードを作る必要はありません。案件ごとに次の1枚があれば、ここまでの話はすべて回ります。
- 案件ID・受注額(変更の承認分を含む)
- 明細ごとの見積原価・状態(見積原価/発注済み/実績)・着地に採る金額
- 変更ごとの販売の差額と原価の差額
- 開催後に請求が来る明細の印
- 見積原価と実績の差の理由(1行ずつ)
案件が終わったら、差の理由が同じ費目に繰り返し出ていないかを見ます。繰り返しているなら、それは次の見積の単価や数量の前提を直す材料です。過去の案件から次の見積に何を引き継ぐかは過去見積のデータ活用で扱っています。見積の雛形から揃える場合は、見積書テンプレート(Excel・自動計算式入り)を無料で配布しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 着地原価はどのくらいの頻度で更新すればよいですか? 発注したとき、請求書が届いたとき、変更が承認されたときの3つのタイミングで更新すれば足ります。定期的に見直すより、状態が変わった行をその場で更新するほうが、ずれが溜まりません。
Q. 未発注の行は、見積原価のままでよいですか? 最新の相見積や協力会社からの概算があれば、そちらに更新します。何もなければ見積原価のまま残し、「未発注」の状態を付けておきます。空欄にしないことが大切です。
Q. 追加見積を出したのに粗利が減りました。なぜですか? 追加見積の販売額より、その変更で増えた原価のほうが大きかった可能性があります。急ぎの手配で協力会社の単価が上がった場合などです。変更ごとに販売の差額と原価の差額を並べると、どの変更で削られたかが分かります。
Q. 社内工数は全員に記録してもらう必要がありますか? 最初は、案件ごとに時間がかかりやすい工程(現場の立ち会い・精算など)だけで十分です。全工程を細かく記録しようとすると続きません。
Q. 会計の原価計算と数字が合いません。 本記事の着地原価は案件を運営するための内部管理の数字で、会計上の原価計算とは目的も計上のタイミングも違います。合わないこと自体は問題ではありません。どちらの数字で話しているかを明示して使い分けてください。
次のステップ
見積・発注・実績を案件ごとにつなぐ仕組みを社内で揃える場合は、イベント業界の見積・発注DXガイドを確認してください。見積業務の隠れコストの試算、標準化から仕組み化までの5ステップ、自社の現在地チェックリスト10項目を収録しています。